各都道府県介護保険担当課(室) 各市町村介護保険担当課(室) 各介護保険関係団体 御 中 ← 厚生労働省 老健局総務課 介 護 保 険 最 新 情 報 今回の内容 「介護保険施設等における防災対策の 強化について」等の発出について 計21枚(本紙を除く) Vol.282 平成24年4月20日 厚生労働省老健局総務課 貴関係諸団体に速やかに送信いただきます ようよろしくお願いいたします。 連絡先 TEL : 03-5253-1111(企画調整係・内線3908) FAX : 03-3503-2740 写 老総発0420第1号 老高発0420第1号 老振発0420第1号 老老発0420第1号 平成24年4月20日 都道府県 各 指定都市 介護保険担当主管部(局)長 殿 中 核 市 厚生労働省老健局総務課長 高齢者支援課長 振興課長 老人保健課長 介護保険施設等における防災対策の強化について 平成23年3月11日に発生した東日本大震災は、死者約16000人、行方 不明者約3000人に及ぶなど被害が甚大で、被災地域が広範囲に及び極めて大 規模なものであるとともに地震、津波、原子力発電施設の事故による複合的な ものとなった。介護保険施設等も甚大な被害を受け、全壊・半壊した施設が52 カ所、入所者・職員等の死亡者、行方不明者、けがをした者も多数となってい る。 介護保険施設や介護サービス事業所等(以下「事業所」という。)は、自力避 難困難な方々も多く利用していることから、今後の各種災害に備えた十分な防 災対策を講じる必要がある。 ついては、「社会福祉施設における火災防止対策の強化について」(昭和48 年4月13日社施第59号)、「社会福祉施設における地震防災応急計画の作成 について」(昭和55年1月16日社施第5号)等の各通知をもとに社会福祉 施設の防災対策に万全を期するよう指導を行っていただいているところである が、さらに次の事項について今一度点検、確認等を行うとともに、その結果明 らかとなった問題点については、速やかに改善措置を講ずるよう貴管下の事業 所を指導願いたい。 記 1.情報の把握 事業所の職員は、災害発生直後にテレビ、ラジオ等の報道による津波情報、 気象情報等に関する情報の収集につとめること。また、事業所の管理者は、消 防機関その他の防災機関との連携を密にし、災害に関連する情報が事業所に確 実に伝わるよう連携体制を確立すること。さらに事業所内の職員にも速やかに 情報を伝達し、避難体制を整えること。 2.指揮組織の確立 災害時に備え事業所は、地震防災応急対策等を迅速かつ的確に実施するため の指揮機能を有する組織を事業所内に設置し、組織の構成、任務分担を定めて おくこと。なお、指揮命令を行う要員が不時の欠員になることも想定されるこ とから、代替要員や夜間における対応、電話等通信機能が不能になった場合の 対応等についても各事業所であらかじめ定めておくこと。 3.防災管理体制の整備 事業所の管理者は、事業所の実態に即した防災管理体制の整備を図るととも に、全職員の責任分担を明確にし、非常事態発生の際には迅速かつ円滑に機能 するよう確認を行うこと。 4.職員等の防災意識の高揚 災害発生時の被害を未然に防止するため又は最小限に止めるためには、事業 所の管理者、職員、利用者等が日頃から防災意識を強く持つことが肝要である。 事業所の管理者は、職員、利用者等に対し、防災意識の啓発・育成を行い、 くれぐれも人為的な被害が発生しないよう努めること。 5.消防用設備及び避難設備等の点検 不測の事態に対処するためには、消火設備、警報設備、避難設備、非常通 報装置等の整備をしておくことは不可欠であるので、これらの設備等が常時 機能するよう点検を行い、適切に管理すること。また、非常口、避難器具等 の付近に障害物を置かない、施設内の落下防止策、転倒防止策の強化などき め細かな防災対策に心がけること。さらに、非常用発電機やラジオなど電源 供給が寸断された場合にも機能する設備の導入についても検討すること。 介護保険施設や居住系事業所においては、利用者・職員等のための水・食 料等の備蓄をしておくこと。 6.有効な避難訓練の実施 (1)事業所の管理者は、職員及び利用者等に対して避難場所、避難経路な ど災害時における対応方法を周知するとともに、非常時には迅速かつ安 全に避難を行えるよう有効な避難訓練を計画的に実施すること。 (2)なお、夜間の災害では一層の混乱が予測されることから、夜間におけ る訓練も併せて実施すること。 (3)さらに海岸、湖岸、河川の近く等の津波による被害が予想される事業 所においては、津波警報が発令された場合の避難場所、避難経路をあら かじめ確認し、職員等に周知する。また、避難を速やかに行うため地域 の自治会や近隣の住民との連携体制を構築し、こうした連携先との合同 避難訓練を実施すること。 (4)地震等非常事態発生時には、防災無線、テレビ、ラジオ等の報道機関 からの津波発生状況の情報把握を行いながら、最適な避難場所への誘導 を行うこと。 7.消防機関等関係諸機関との協力体制の確立 事業所の管理者は、消防機関はもとより、地域の消防組織等との連携を密に し、施設の内部構造及び利用者の状況を十分認識してもらうとともに、避難・ 消火等が円滑に実施できるよう協力体制の確立に努めること。 8.危険物の管理 防火管理責任者は、暖房器具類の管理はもとより、プロパンガス、重油等の 危険物の保管状況について、常時、十分な点検と確認を行うこと。 9.事業所間の災害支援協定の締結 東日本大震災では、多くの関係者間において、被災施設から他施設への避難、 被災施設への他施設からの介護職員等の派遣などの支援が行われたところで あり、中でも事業所同士の支援は、即応性があるとともに被災施設にとっても 非常に役に立ったとの声も多かった。 ついては、あらかじめ、都道府県内の施設や近隣都道府県の施設との間で、 災害時における被災施設入所者の他施設への避難・被災施設からの受入れ、介 護職員等の被災施設への派遣・他施設からの受入れなどの支援について、協定 を結んでおくことも検討されたい。 また、事業者団体における支援体制の構築にも努められたい。 10.地域との連携 災害時には地域社会との連携が重要である。日頃より地域との関係を深め、 災害時には地域住民からの支援の受け入れや地域の要援護者の避難の受け入 れなど双方向の連携を行うことも検討されたい。 入所者のうち自力避難困難な方については、避難の容易な場所に可能な限り 部屋替えを行うこと。 写 事務連絡 平成24年4月20日 都道府県 各 指定都市 介護保険担当主管部(局)御中 中 核 市 厚生労働省老健局総務課 高齢者支援課 振 興 課 老人保健課 大規模災害時における被災施設から他施設への避難、職員派遣、 在宅介護者に対する安全確保対策等について 平成23年3月11日に発生した東日本大震災は、死者約16000人、行方 不明者約3000人に及ぶなど被害が甚大で、被災地域が広範囲に及び極めて大 規模なものであるとともに地震、津波、原子力発電施設の事故による複合的な ものとなった。介護保険施設等も甚大な被害を受け、全壊・半壊した施設が 52カ所、入所者・職員等の死亡者、行方不明者、けがをした者も多数となって いる。 これを受け、厚生労働省老健局では、老人保健事業推進費等補助金(老人保 健健康増進等事業分)を民間の研究団体に助成し、大規模災害時における被災 施設から他施設への避難、介護職員等の応援派遣、在宅要介護者の安全確保策 等について、研究を行った。 このたび、この研究成果がまとまったので、配布する。 また、この研究内容を基に、別紙のとおり、大規模災害時における@被災施 設から他施設への避難、A介護職員等の応援派遣、B在宅要介護者の安全確保 策のそれぞれについて、対策の骨子を整理した。 各自治体においては、これらを参考に、地域の実情に応じて工夫を加えると ともに、事業者団体とも協議の上、大規模災害時における対策を講じられたい。 都道府県においては、管下市町村にも情報提供願いたい。 なお、詳細な報告書については、下記ホームページを参照されたい。 (平成24年4月下旬掲載予定) http://jp.fujitsu.com/group/fri/report/elderly-health/2011support.html (別紙1) 被災施設から他施設への避難 1.利用者の安全を確保するための避難施設等の確保 今回の東日本大震災のような大規模災害で施設や設備が大きく被災し、介護 老人福祉施設、介護老人保健施設等の施設での生活が継続できないような場合 には、学校の体育館等への緊急避難では、介護に必要な設備等もないため、生 活を継続することが困難な状況も見られた。 こうしたことから、介護施設等においては、施設が被災した場合、介護環境 を確保できる他の同種又は類似の施設に利用者を避難させる必要がある。 2.避難施設確保の準備 (1)他施設との協定締結 介護施設等は、避難の必要が生じた場合に迅速かつ安全に利用者の避難が 行えるよう、あらかじめ都道府県内や近隣の都道府県の同種又は類似の施設 と相互の避難と受入れに関する災害協定を結んでおく。 (2)都道府県への登録 介護施設等は、災害協定を締結した場合には、その内容を都道府県に登録 する。 3.災害発生時の対応 (1)被災施設は、災害協定に従い、受入施設に受入れの要請を行う。受入れ が行われた場合には、都道府県に報告する。 (2)都道府県は、施設相互の災害協定で対応できないと判断した場合には、 管下の関係団体や旅館、ホテル等に協力を要請するとともに、他都道府県 とも広域的な調整を行う。 なお、東日本大震災のように都道府県域を越える大規模災害が発生し た場合には、国においても広域的調整を行う。 4.避難に当たっての留意点 (1)受入先の施設の種別は、被災施設と同一の施設種別であることが望まし いが、地理的な事情(避難に時間がかかるため利用者に多大な負担がかか る等)がある場合には、種別が異なっても近隣の施設への避難も検討する。 (2)利用者を避難させる際には、利用者の健康状態に特に留意し、必要に応 じて医療の確保等を行う。 5.被災施設の利用者を受入れる際の留意点 利用者を受入れる施設においては、既存スペースの活用を図るとともに災害 時には、定員を超過しても差し支えない。 (別紙2) 介護職員等の応援派遣 災害が大規模であり、復旧まで長期化が予測される状況では、定員を超えて 被災施設の利用者を受入れている状態や職員の多くが被災又は疲労している状 態が続き、必要な職員数が確保できない事態となることが予想される。 こうした状況に備え、災害時における都道府県域を越える介護職員等の応援 派遣の体制(災害派遣介護チーム)について整備する。 1.支援職員の派遣・受入体制の事前準備 (1)介護施設等や介護サービス事業所、居宅介護支援事業所等 ア 災害時の派遣要請に速やかに対応できるよう、あらかじめ派遣可能な要 員の職種別の人員数を連絡調整担当者とともに、都道府県に登録する。 イ 派遣要請から出動準備が整うまでを想定した訓練を実施する。 (2)都道府県 ア 職員の派遣・受入れが円滑に行えるよう、組織内の指揮命令系統を明確 にする。 イ 支援職員の確保、支援活動に必要な物資の確保などにあたり、関係団体 の協力が得られるよう、関係団体と災害時の協力協定等を締結する。 ウ 管内の施設等の被災状況、職員の不足など様々な情報を把握するため、 管内市区町村及び関係団体の協力を得て、情報伝達の体制を整備する。 2.大規模災害発生時の対応 (1)被災都道府県の対応 ア 調整窓口の開設 被災都道府県は、介護施設等への災害派遣介護チームの調整窓口を開 設し、市区町村、管下の介護施設等及び関係団体に調整窓口を開設した ことを連絡する。 イ 派遣要請 被災都道府県は、被災状況を勘案し、介護施設等や介護サービス事業 所、居宅介護支援事業所等に対し介護職員等の派遣が必要だと判断した 場合は、隣接の都道府県に対し、災害派遣介護チームの派遣を要請する。 要請にあたっては、派遣先となる施設ごとに、当面1ヶ月間の派遣希 望人数、派遣希望職種とともに、派遣に関する留意事項を整理し、隣接 都道府県に連絡する。 (2)被災都道府県に隣接する都道府県の対応 ア 調整窓口の開設 隣接する都道府県は、介護施設等への災害派遣介護チームの調整窓口 を開設し、市区町村、管下の介護施設等及び関係団体に調整窓口を開設 したことを連絡する。 イ 派遣準備 隣接する都道府県は、被災都道府県からの派遣要請を受けて、あらか じめ準備していた派遣可能人員数登録簿を基に、人員数を登録した介護 施設等に確認した上で、当面1ヶ月間の派遣可能人数、派遣可能職種を 取りまとめ、被災都道府県の調整窓口との間で、派遣元と派遣先の施 設・事業所を調整する。 ウ コーディネーターの派遣 派遣開始から1ヶ月間は、混乱している状況であり、現地での支援体 制を構築する必要があることから、現地の市区町村や派遣要請を行った 施設と派遣職員との間の調整役となるコーディネーターを一緒に派遣 することを検討する。 3.その他 (1)関係団体が調整役となり、都道府県を経由せずに、施設間の派遣調整を 行う場合には、都道府県が行う派遣調整との重複を避けるため、情報提供を 行うよう、都道府県から関係団体に周知する。 (2)東日本大震災のように隣接する都道府県間の調整では対応できない大規 模災害が発生した場合には、国においても広域的調整を行う。 (別紙3) 在宅要介護者等の安全確保策 1.在宅要介護者等の避難体制の整備 (1)事前準備 市区町村は、大規模災害を想定して、あらかじめ在宅の要介護高齢者等へ の対応の体制整備に努めること。 ア 在宅の要介護高齢者の安否確認、避難誘導等の体制の確保 地域には、要介護状態のため自力避難困難な高齢者も多く、これらの要 介護高齢者を速やかに安全な避難所へ避難誘導する必要がある。 市区町村長は、あらかじめ区域(例えば中学校区)を定め、災害発生時 に、要介護者の安否確認、避難誘導、市区町村への状況報告を行う事業者 を指定する。 この事業者としては、地区を担当する地域包括支援センターや当該要介 護者を担当している居宅介護支援事業所、当該要介護者にサービスを提供 している事業者が考えられる。 また、指定された事業者(在宅要介護者安否確認事業者)が、その区域 で安否確認等を担当することとなる要介護者の居宅地等の情報を有しな い場合には、個人情報の取扱方法に則り、当該事業者に情報を提供する。 イ 福祉避難所の指定 高齢者、障害者、妊産婦、乳幼児、病弱者等であって一般の避難所での 生活が困難と考えられる者については、福祉避難所の対象者として支援す ることとなっている。 市区町村は、区域内の介護施設等、通所介護事業所等にあらかじめ福祉 避難所としての役割を担うよう、協力要請を行う。 東日本大震災においても福祉避難所を設置し、災害時要支援者の支援を行ったところ である。ついては、都道府県、市区町村はあらかじめ福祉避難所として利用可能な施 設に関する情報及び福祉避難所の指定要件等を踏まえ、福祉避難所として指定する施 設を選定しあらかじめ指定しておくこととする。 (詳しくは、以下の「福祉避難所設置・運営に関するガイドライン」を参照) http://www.jrc.or.jp/saigai/shiryo/index.html (2)災害発生時の対応 在宅要介護者安否確認事業者は、担当する区域内の在宅要介護者宅を訪問 し、逃げ遅れている者がいないか等の安否確認、適切な避難場所への避難誘 導を行う。 2.避難所における要介護高齢者への支援 (1)市区町村は、災害が発生し、避難所が設置される事態に至ったときは、 避難所に避難している要介護高齢者の状況を把握し、以下の措置を講じる。 ア 入院等医療を提供する必要がある場合は病院等への搬送 イ 一般の避難所では、生活を継続していくことが困難と思われる場合は、 本人・家族等への説明を行い福祉避難所への誘導 ウ 在宅介護サービスが必要な要介護高齢者が避難所で避難生活を続ける 場合には、避難所を居宅と見なして介護事業者による継続的な介護サー ビスを提供 エ 重度の要介護状態で福祉避難所等での対応が困難な場合は、短期入所 サービスの利用や介護保険施設への入所の斡旋 オ 今まで受けていた介護サービス事業者による継続的な介護サービスが 難しい場合には、他の事業者によるサービスが継続できるよう斡旋する。 カ 避難所生活の長期化や生活環境の変化により生活機能の低下等が防止 できるような生活不活発病対策の実施 (2)市区町村は、避難所の要介護高齢者の状況を把握する際、介護支援専門 員、地域包括支援センター、在宅介護支援センター等の介護専門職に加え、 医療、保健分野等の専門職種と連携して行うことが有効である。 (3)市区町村は、避難所の要介護高齢者の状況を把握するに際し、各種業務 団体の協力を仰ぐ場合には、複数の団体が同一の避難所の状況把握を重複 して行うようなことのないよう、情報の一元管理と共有ができる環境を整 えることが必要である。 平成23年度 老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業 被災時から復興期における 高齢者への段階的支援とその体制のあり方の 調査研究事業報告書 (概 要 版) 平成24(2012)年3月 株式会社富士通総研 1. 調査目的 本事業では、平成23年3月11日に発生した東日本大震災で被災した高齢者が、復興過程の さまざまな状況下でも適切な支援によってその人らしい日常生活を取り戻すことを目指し、被災 時〜復興の段階に応じた高齢者への適切な支援のあり方について検討を行いました。 本事業で得られた情報や成果は、被災した地域の復興の一助のみならず、今後の高齢者やコミ ュニティの支援、まちづくりで活用されることを目指しました。 2. 実施概要 (1) アンケート及びヒアリング調査の実施 @ アンケート調査 平成23年10月より、岩手県、宮城県、福島県下の自治体、市町村社会福祉協議会、高齢者 福祉施設@(特別養護老人ホーム、老人保健施設、認知症高齢者グループホーム、小規模多機能 型居宅介護事業所)、高齢者福祉施設A(地域包括支援センター、在宅介護支援センター)の全て に対し、アンケート調査を実施しました。 調査票種類 発送件数(件) 回収件数(件) 回収率 自治体 128 54 42.2% 社会福祉協議会 134 71 53.0% 高齢者福祉施設@ 1,256 704 56.1% 高齢者福祉施設A 466 225 48.3% 合計 1,984 1,054 53.1% A ヒアリング調査 岩手県、宮城県、福島県、自治体、社会福祉協議会、関係団体、介護事業者等に対するヒアリ ングを実施しました。 (2) 検討会の設置 内出 幸美 社会福祉法人典人会 理事・総所長 大月 敏雄 東京大学大学院 工学系研究科建築学専攻 准教授 狩野 徹 岩手県立大学 社会福祉学部福祉経営学科長・教授 小山 剛 社会福祉法人長岡福祉協会 高齢者総合ケアセンターこぶし園総合施設長 NPO法人災害福祉広域支援ネットワーク・サンダーバード代表理事 鈴木 典夫 福島大学行政政策学類教授 福島大学災害ボランティアセンターセンターマネジメントチーム 橋 治 社会福祉法人仙台ビーナス会理事長 公益社団法人全国老人福祉施設協議会理事 野田 毅 社会福祉法人東北福祉会法人本部次長兼せんだんの杜ものう参与 本間 達也 医療法人生愛会 社会福祉法人生愛福祉事業団 理事長・総院長 公益社団法人全国老人保健施設協会 常務理事 山崎 敏 トシ・ヤマサキまちづくり総合研究所 代表取締役 日本医療福祉建築協会・日本医療福祉設備協会 理事 (3) セミナーの開催(基調講演・成果報告・検討委員によるパネルディスカッションを実施) 仙台会場 平成24年3月9日(金) 13:30〜16:30 出席者:88名 官公庁・自治体(20)、社会福祉法人・医療法 人等(42)、その他民間(26) 東京会場 平成24年3月15日(木) 13:30〜16:30 出席者:110名 官公庁・自治体(26)、社会福祉法人・医療 法人等(42)、その他民間(42) 高齢者は、その居場所と介護の有無によ り、(1)施設の要介護高齢者、(2)在宅の要 介護高齢者、(3)在宅の虚弱・自立の高齢者、 に分類されると考えられます。 @施設の要介護高齢者 →介護施設等居住系の施設でサービスを利用 →予め介護事業者に認識されている A在宅の要介護・要支援高齢者 →自宅でサービスを利用 →予め介護事業者に認識されている B在宅の虚弱・自立高齢者 →自宅に居住・介護サービス等利用せず →介護事業者認識なし※家族・地域が頼り (1)事業者の事業継続 (2)ニーズ把握・サービス調整 (3)リスクの早期発見・悪化防止 施設 在宅 @施設の要介護高齢者 →介護施設等居住系の施設でサービスを利用 →予め介護事業者に認識されている A在宅の要介護・要支援高齢者 →自宅でサービスを利用 →予め介護事業者に認識されている B在宅の虚弱・自立高齢者 →自宅に居住・介護サービス等利用せず →介護事業者認識なし※家族・地域が頼り (1)事業者の事業継続 (2)ニーズ把握・サービス調整 (3)リスクの早期発見・悪化防止 施設 在宅 (1) 施設の要介護高齢者 介護保険施設を含む高齢者対応の施設に 居住し、生活全般も介護事業者が支援する 等、常に第三者から状態を把握されていま す。今回の震災でも早い時点で介護事業者に安否等は確認され、支援が継続された状況がありま した。従って、施設の運営事業者の事業継続の可否が高齢者への支援に直結すると考えられます。 (2) 在宅の要介護・要支援高齢者 従来からの自宅に居住し、あらかじめ介護事業者にその存在と状態を把握されています。今回 の震災でも、数日かけてでも介護事業者がサービスを利用している高齢者の安否を確認していた 等、かかる時間の長短はあるものの、第三者から状態を確認される環境と考えられます。一方、 被災、環境変化、災害の長期化等で心身状態の悪化が想定されることから、速やかに状態を確認 してニーズの把握を行い、必要なサービスにつなぐ・適した環境の判断を行うことが必要です。 (3) 在宅の虚弱・自立高齢者 自宅に居住し、介護保険サービス等は利用しておらず、介護事業者にその存在と状態は把握さ れていません。家族・地縁等が頼りとなりますが、それらがない場合は見落とされる可能性があ り、結果として心身状態の悪化が懸念されます。従って、在宅の要介護者と同様に速やかな状態 の把握によるリスクの早期発見と悪化防止策が必要です。また、普段からの周囲とのコミュニケ ーションの有無が、災害時には心身に大きな影響を与える可能性が高いとも考えられます。 4. 対象となる時期について 発災からを時系列で整理すると、次のとおりとなります。 ・仮設住宅の撤去 ・地域で高齢者を支える 機能を持つまちとして再生、 安全と安心が確保される ・地域での支援体制の 構築がなされる ・支援センター等の地域 拠点を中心に支援提供 ・仮設住宅の設置 開始、可能な人から 移行、在宅は生活再建 へ(社会的弱者顕在化) ・避難や 救命救急 等の緊急 対応中心 災害発生3週間中長期 発災〜混乱(3時間以内) 避難救援(3日以内) ステージTステージUステージV 災害発生 (4日〜3週間以内)(4週間〜) @安否確認 ・安全確保 A状況/状態確認 スクリーニング とトリアージ →サービス調整 B実際のサービスにつなぐ時期 サービス量・種類の調達/確保 Cサービスの提供 状況/状態を継続して確認・支援 ・仮設住宅の撤去 ・地域で高齢者を支える 機能を持つまちとして再生、 安全と安心が確保される ・地域での支援体制の 構築がなされる ・支援センター等の地域 拠点を中心に支援提供 ・仮設住宅の設置 開始、可能な人から 移行、在宅は生活再建 へ(社会的弱者顕在化) ・避難や 救命救急 等の緊急 対応中心 ・仮設住宅の撤去 ・地域で高齢者を支える 機能を持つまちとして再生、 安全と安心が確保される ・地域での支援体制の 構築がなされる ・支援センター等の地域 拠点を中心に支援提供 ・仮設住宅の設置 開始、可能な人から 移行、在宅は生活再建 へ(社会的弱者顕在化) ・避難や 救命救急 等の緊急 対応中心 災害発生3週間中長期災害発生3週間中長期 発災〜混乱(3時間以内) 避難救援(3日以内) ステージTステージUステージV 災害発生災害発生 (4日〜3週間以内)(4週間〜) @安否確認 ・安全確保 A状況/状態確認 スクリーニング とトリアージ →サービス調整 B実際のサービスにつなぐ時期 サービス量・種類の調達/確保 Cサービスの提供 状況/状態を継続して確認・支援 @発災直後 安否確認・安全確保の時期。基本的に、施設居住の場合は運営事業者が、在宅居住 の高齢者の場合は地域住民らによって行われることが想定される。 AステージT (概ね発生後3日以内) 介護サービス継続提供のための状況・状態の確認とその調整開始の時期。 ニーズと量把握を行うためのスクリーニング、トリアージ等の機能が求められる。 BステージU (概ね発生後4日〜3週間以内) ダメージを受けた状態から常態に極力戻そうとする時期。 サービスの質・量とも充実させるための対応が求められる。 CステージV (概ね発生後4週間以降) 更に常態に戻していく時期。 サービスを安定的に供給すると共に質の確保・向上させるための対応が求められる。 災害発生時に自動的に動くシステムとするためには、突然の状況下でも予断なく行動できるよ う、事前にその対策の検討、実施・連携体制の構築、都道府県、市区町村、事業者等の各関係者 にも役割認識、対応方法の周知、防災意識の醸成等がなされているのに加え、実際に訓練等のシ ミュレーションを通じて、災害時に行動すべき内容がきちんと認識されていることが必要です。 一方、災害発生時には、事前に検討しておいたことを確実に遂行することとなりますが、被災 状況等によっては想定外の量への対応も発生します。よって、マネジメントと調整が的確に実施 されるよう、情報の集約や伝達のフローの確保が重要となります。 東日本大震災における災害規模は大きく、壊滅的な打撃を受けた市区町村等の自治体も少なく なく、被災後に機動的に動くことが困難な状況も多々見られました。そうしたことを考えると、 介護施設等の広域で考えられるものについては都道府県が調整を行い、在宅高齢者等の地域内で の調整が考えられるものについては市区町村が行う等の分担を行うことが適当とも考えられます。 そうした役割と責任の分担を行った上で、実施に際しては地域包括支援センター、社会福祉協議 会、介護事業者、そして地域の自治会等による連携体制を構築していくべきと考えられます。 (2) 施設の要介護高齢者への支援 〜事業継続策の検討 @ 調査結果から 今回の震災による建物の機能低下や避難等によって、介護施設では従来からの施設での生活を 継続させることが困難となり、新たな場所の確保という課題が生じました。また、被災等による 職員数の減少や避難等に伴う施設利用者の受入増によって、介護施設の事業者のマンパワーは相 対的に減少し、その確保という課題も生じました。このことは、事業者にとって介護の継続性と 質の担保を困難にさせることとなり、結果として施設全体の避難や利用者の他施設への移動、他 施設への利用者の受入れ、そして被災施設への他施設職員の受入れや被災施設への職員派遣とい うニーズが発生することとなりました。 そうしたニーズに対応すべく、震災発生後に厚生労働省は全国の自治体や介護事業者に呼びか け、職員派遣や利用者移動の体制作りを行い、その利用を進めましたが、被災した事業所の混乱 や慌しさと相反して利用が伸びない状況が見られました。その一方、高齢者施設@のアンケート では、施設が被災した場合でも、「多少環境や体制が不十分でも基本的には従来からの職員で施設 は運営するべきだ」、「多少環境や体制が不十分でも、基本的にはもともとの施設で要援護者は見 るべきだ」に4割以上が「そう思わない」「あまりそう思わない」と回答し、「早めに見極め、必 要な場合は速やかに職員の受入れ等を進めるべきだ」、「早めに見極め、必要な場合は速やかに要 援護高齢者の受入れ等を進めるべきだ」では9割以上が「そう思う」、「大体そう思う」と回答し ている状況がある等、今回の震災で見られた職員派遣や利用者移動についての現象と、アンケー トで得られた事業者の意向との間にはギャップが生じていました。よって、事業者等へのヒアリ ング等を通じて、その原因の追究と解決のための検討を行いました。 そう思う大体そう思う あまり 思わない そう思わない無回答 凡例 (%)  全  体(708) 岩手県(244) 宮城県(243) 福島県(221) 沿岸部(269) 内陸部(410) ( )内は回答者数(人) 位 置 す る 県 地 域 12.312.312.312.215.210.242.533.534.040.336.841.538.836.338.536.637.235.19.58.610.212.38.611.02.22.22.32.12.92.4 そう思う大体そう思う あまり 思わない そう思わない無回答 凡例 (%)  全  体(708) 岩手県(244) 宮城県(243) 福島県(221) 沿岸部(269) 内陸部(410) ( )内は回答者数(人) 位 置 す る 県 地 域 15.517.614.014.917.114.640.335.746.539.442.040.830.329.430.727.229.728.512.710.312.313.911.213.21.72.61.82.12.02.0 そう思う大体そう思う あまり 思わない そう思わない無回答 凡例 (%)  全  体(708) 岩手県(244) 宮城県(243) 福島県(221) 沿岸部(269) 内陸部(410) ( )内は回答者数(人) 位 置 す る 県 地 域 38.841.041.233.937.539.352.010.452.051.954.350.752.06.23.74.94.87.60.90.00.40.40.40.52.03.02.72.12.92.5 そう思う大体そう思う あまり 思わない そう思わない無回答 凡例 (%)  全  体(708) 岩手県(244) 宮城県(243) 福島県(221) 沿岸部(269) 内陸部(410) ( )内は回答者数(人) 位 置 す る 県 地 域 48.752.048.145.749.847.644.844.445.443.545.742.64.44.54.52.94.56.31.50.00.80.80.01.81.61.61.61.42.21.2 早めに見極め、必要な場合は速やかに職員の受入れ等を 進めるべきだ(報告書:高齢者福祉施設@問17-6) 早めに見極め、必要な場合は速やかに要援護高齢者の 受入れ等を進めるべきだ(報告書:高齢者福祉施設@問11-6) 多少環境や体制が不便でも、基本的にはもともとの施設で 要援護者は見るべきだ(報告書:高齢者福祉施設@問11-5) 多少環境や体制が不十分でも基本的には従来からの職員で施設 は運営するべきだ(報告書:高齢者福祉施設@問17-5) A 被災施設の避難について 〜場所確保の視点からの事業継続 【発生したこと】 東日本大震災では、建物を使用できない状態となった介護施設が発生しており、その場合には 施設全体での避難、もしくは分散しての避難が実施されました。 分散して避難する場合、施設の利用者はバラバラになって広域も含めた複数の別の施設に散ら ばることとなります。ヒアリングでは、リロケーションダメージに加え、利用者同士や介護者と の馴染みの関係の崩壊が懸念されること、災害時という混乱した状況下で利用者情報を別事業者 に伝えることの難しさから、サービスの質を担保することの難しさが指摘されました。また、利 用者を他事業所へ移動させることは、事業者としても、その後の事業再開に向けてのハードルが 高くなる状況があります。 一方、施設全体で利用者と事業者が避難する場合、リロケーションダメージはあるものの馴染 みの関係は保たれ、利用者の情報も事業者は持っていることから、サービスの質の担保は比較的 期待できると考えられます。今回、実際に施設全体の移動・受入れが行われた例では、関連法人 もしくは類似施設への避難が殆どでしたが、一部では一般の宿泊施設に避難した事例も見られま した。しかし、施設全体で地域の一般避難所に避難することを余儀なくされた事例もある等、要 介護者の生活と介護者のサービス提供の継続が困難となった状況も見られました。 ■ 施設間協定等による連携先の確保 特に被害が大きかった沿岸部のアンケート結果を見てみると、利用者の受入れ先の確保につい ては「直接施設間で交渉」(39.4%)、「同一法人・関連グループの紹介」(21.1%)と、当事者 間での調整によるものが上位となっていました。ヒアリングからは、一刻を争う中、直接事業者 間で話し合うことで、それらが実現するまでの時間短縮と合意形成がしやすくなる等の意見があ りました。また、介護保険としての継続の担保も事業者には重要です。事例では、1施設全体が 他県の一般の宿泊施設に移動したものの、移動直前に自治体間で覚書を結ぶことにより、介護保 険事業としての継続が図られたケースがありました。 こうしたことは、あらかじめ災害発生と同時に自動的に動くシステムとして整備しておくこと が必要です。そのためには、施設間で災害時の避難と受入れ等に関する相互支援の協定を締結し、 それを都道府県に届け出ておくことで介護保険事業としての継続が図られるよう、制度としても 整えておくことが有効であると考えられます。協定先については、災害時には迅速な対応が求め られることから、同一都道府県内もしくは隣接都道府県の同種もしくは類似の施設とすることが 望ましく考えられます。また、協定先が利用者を受入れた場合、既存スペースの活用で著しい支 障が生じないと考えられれば、定員超過も可としておく必要があります。 災害発生時には協定先の支援を得て運営を行うことになるため、あらかじめ双方の施設が行っ ているサービス等の考え方や対応等が理解できるものであることが必要です。よって、施設自ら が連携するのに適切と思われる施設を探し、協定を結ぶことが望ましいと考えられますが、それ が困難な場合には自治体等が仲介を行うことが想定されます。また、実効性のある協定とするた めにも、共同訓練や研修会等で交流を深め、常日頃から顔の見える関係を築いておくことが有効 であり、協定の主旨と背景、内容を双方の施設の職員全体が認識していることが必要です。 ■ 災害発生時の速やかな対応 災害発生直後から概ねステージT(発生後3日以内)の時期において、被災施設は被害状況を 確認して協定先施設に受入れ要請を行い、実際の受入れを進めることになります。実態の把握の ためにも、被災施設は受入れの結果については都道府県に報告を行い、それによって介護保険事 業としての継続が図られるようにしておくことが必要です。一方、被災状況によっては、協定先 の受入れが困難となる可能性も考えられます。そうした状況も想定して、都道府県は市区町村と 協力して、異なる種別であっても利用可能な施設等のリストを作成しておくことも効果的です。 今回の東日本大震災は都道府県を越える大規模災害であり、県自体の機能保持が困難となりま した。そうした場合には、今回のように国においても広域調整を行うことが必要です。また、利 用者の移動が長距離、長時間になるような場合には、その健康状態に配慮する必要があります。 B 被災施設への職員の応援派遣 〜サービス確保の視点からの事業継続 【発生したこと】 東日本大震災では、被災施設で職員の被災や利用者の増加等によるマンパワー不足の状況が見 られました。また、施設職員も被災者であり、その中で業務を続けることの負担は非常に大きい ものでした。一方、負担軽減のための被災施設への職員派遣のシステムは構築されたものの、そ の利用が進まなかった理由は何かをヒアリングで確認したところ、災害発生からの時系列によっ て求められるマンパワーの状態が異なること、そして被災施設側にも職員派遣や利用者移動に対 する事前認識が無く、その考え方が整理されていなかったことによる進みにくさがあったことが 確認されました。 災害発生からステージTの時期は、災害によってダメージを受けてマンパワーが減じた状態と なっていることから、まずは「量の確保」が重視されます。よって、迅速なマンパワーの量の確 保が必要であるため、地域内や近隣による職員派遣等の距離的な近さが重視されます。一方、一 定程度状況が把握できるようになり、量の確保が進みつつあるステージU(発生後4日〜3週間 以内)以降では、サービスの「質の確保」がより重視されるようになり、安定的に供給される状 況が担保されるのであれば、広域からの派遣も視野に入るようになります。 以上のように、災害発生からの時系列でニーズは変化します。特に今回のような大規模災害で 混乱した状況下では各事業者の情報を得にくい状況もあったため、時間が経過したことによって 量から質へとニーズの視点も大きく変化するニーズのタイムラグも生じ、結果として需要側と供 給側のミスマッチが生じたことがうかがわれます。 〜特にステージT:広域派遣を視野に入れたサービス供給型の災害派遣介護チーム 災害には、東日本大震災のように大規模なものから一地域のみに限定されるものまで想定され ます。また、東日本大震災は大規模な災害であり、支援に入れず、地域が孤立した状態となった 所もありました。 災害では距離的な問題も踏まえた上で迅速な対応が必要であること、また、災害対応の基本的 なノウハウは共通であり、どの地域でも通用して展開できることを考えると、ある一定程度の圏 域において災害派遣介護チームを整備し、@地域内の事業所等の支援にあたる、A各圏域間での 相互支援を行う、ことを実施することで、地域から広域まで段階的に支援体制を拡大することが 可能と考えられます。その場合の地域・圏域の規模としては、各市区町村で事業者数や職員規模 の相違があることが考えられることから、都道府県程度を目安とすることが適当であり、都道府 県がその体制整備と派遣調整の窓口になることが想定されます。 高齢者施設@のアンケートでは、災害時介護派遣チームとしての派遣可能な人数を「2名程度」 (30.2%)、「1名程度」(25.6%)、「3〜4名」(12.1%)とし、派遣可能な日数は「4〜7日」 (36.2%)、「8〜14日」(17.7%)、「15日以上」(9.3%)とした結果があります。こうした 背景を受け、広域派遣を見越した地域での支援体制の構築を進めることが望ましく考えられます。 そのためには、事前の対応として、都道府県では各事業所から災害派遣介護チームへの参加職 員を募り、それを登録し、訓練を実施する必要があります。また、災害発生に迅速に対応すべく、 都道府県組織内の指揮命令系統の確立だけではなく、実施に際しての協力を得られるべく、関係 団体等とは協力協定の締結を進めることが望ましく考えられます。また、東日本大震災では現場 での情報のエスカレーションフローの整備が課題となっていたため、地元である市区町村や関係 団体との協働のもと、情報伝達体制の整備を進めることが必要です。 災害発生時には、都道府県は災害派遣介護チームの調整窓口を開設し、そのことを市区町村、 事業者及び関係団体に連絡し、あわせて被災状況の把握を行います。その際には、派遣を希望す る施設からそのニーズや留意事項を確認することが必要であり、その上で派遣要請を行う都道府 県に連絡を入れることになります。一方、派遣側の都道府県も災害派遣介護チームの調整窓口を 開設し、市区町村、事業者及び関係団体に連絡を行い、派遣要請に基づく調整を開始し、職員派 遣を実施することになります。以上は都道府県が実施することが想定されますが、実際には現地 での支援体制づくりにもさまざまな調整が発生します。よって、市区町村にもその役割が想定さ れますが、東日本大震災のような大規模災害の場合にはその機能自体を確保することが困難にな ることが想定されるため、調整役となるコーディネーターを一定程度の期間派遣することも有効 であると考えられます。 広域支援時の重要な留意点として、被災地の人々への感情への配慮があります。介護は生活に 即したものです。よって、その地域性や風土に基づく気質等や、特に被災時という特別な環境下 の被災した利用者・事業者双方の感情に如何に配慮するかという問題があります。よって、広域 支援の場合は、可能な限り被災地の災害派遣介護チームのメンバー等に、広域支援側のチームの 一員として加わってもらう等の工夫が実際に支援を行う上でも有効であり、被災地への配慮とし ても必要であると考えられます。 介護職員の派遣・受入れ体制(例) ◆同一県内での支援 ◆広域間での支援 Aチーム Bチーム 施設 被災 支援 Cチーム 施設 被災Aチーム Bチーム 施設 被災 施設 被災 支援 Cチーム 施設 被災 施設 被災 Aチーム Cチーム Dチーム Eチーム Bチーム 派遣:都道府県(ア) 被災:都道府県(イ) 登録・訓練 派遣 調整 Aチーム Cチーム Dチーム Eチーム Bチーム 派遣 実際に支援に入る際には被災都道 府県のDCAT等と連携し、地域性に 配慮しながら支援を実施。 都道府県「ア」都道府県「イ」 イ イ イ イ イ 施設 被災 施設 被災 施設 被災 施設 被災 施設 被災 Aチーム Cチーム Dチーム Eチーム Bチーム 派遣:都道府県(ア) 被災:都道府県(イ) 登録・訓練 派遣 調整 Aチーム Cチーム Dチーム Eチーム Bチーム 派遣 実際に支援に入る際には被災都道 府県のDCAT等と連携し、地域性に 配慮しながら支援を実施。 都道府県「ア」都道府県「イ」 イ イ イ イ イ 施設 被災 施設 被災 施設 被災 施設 被災 施設 被災 施設 被災 施設 被災 施設 被災 施設 被災 施設 被災 ■ 質の安定的な確保〜特にステージU以降:関係団体との連携を視野に入れた体制づくり ステージTでは地域内での体制確保と迅速な支援が課題であるため、余り遠くない範囲で相互 支援が行うことができる体制づくりが有効です。一方、ステージU以降では、災害派遣介護チー ムの他に協定先施設による支援も継続して想定されますが、自ら実施するサービスや考え方が同 じもしくは類似する等の観点から、関係団体等を通じての職員派遣の希望も聞かれました。質・ 量とも安定的に提供されることが担保されれば、あえて近隣であることの必要性は薄くなるとも 考えられます。よって、特にステージU以降は関係団体を通じての派遣が増えることが想定され ますが、その場合も都道府県による職員派遣は継続していると考えられるため、重複を避けるべ く、関係団体等の派遣については関係団体から情報提供されるよう周知しておく必要があります。 (3) 在宅の要介護高齢者等への支援 〜避難体制の確保と早期の状態把握による悪化防止 @ 調査結果から 在宅の要介護高齢者等で最も課題となるのは、避難体制の確保と、実態把握に伴う早期対応に よる悪化防止です。今回の震災では、勤務する事業所が大きな被害を受けながらも、災害直後か ら高齢者の安否確認と実態把握に入った事業者が少なからずいました。一方、アンケートで地域 の在宅高齢者の安否確認等に入ったかを聞いたところ、高齢者@では「主に自分達の施設で把握し ている高齢者についてのみ行った」(56.8%)、「自分達の施設で把握している高齢者に加え、今 まで把握していなかった高齢者についても行った」(13.6%)、「特に行わなかった」(28.2%) となっています。一方、高齢者施設Aでは「主に自分達の施設で把握している高齢者についてのみ 行った」(53.1%)、「自分達の施設で把握している高齢者に加え、今まで把握していなかった高 齢者についても行った」(43.4%)、「特に行わなかった」(2.7%)となっています。 在宅高齢者の実態把握は時間をかけながらも自治体や各事業者が個別で行っていた状況もある 等、高齢者ごとにバラバラに実態把握が行われていた可能性があります。また、そのことにより、 高齢者を見落とすリスクも高くなるだけではなく、必要なサービスに迅速につなぐことの難しさ も生まれました。よって、在宅の要介護高齢者では、状態把握と早期発見による悪化防止を行う べく、地域での実態把握や情報の一元化を行うことが課題です。また、環境変化により、在宅の 高齢者も要介護のボーダーライン周辺にいると考えられます。そのため、ステージTでは、早期 に在宅の高齢者の状態を適切に見極め、サービスにつなぐことができる体制の構築が必要です。 また、在宅の高齢者は地域と密接な関係を持ち、被災後の居場所も自宅、一般避難所もしくは福 祉避難所等と地域との親和性が高いため、その調整は市区町村が行うことが妥当と考えられます。 事例では、津波によって事業所が流出し、職員が離ればなれとなりながらも、災害当日から地 域の高齢者の安否確認に入った地域包括支援センターがありました。そのセンターは、市から事 業者が受託して実施しています。ヒアリングでは、当初より市との役割分担やミッションが明確 であったこと、災害時の連携体制として地域自治会等との訓練を重ねて連携体制が出来ていたこ と、要援護高齢者等についても把握が進んでいたこと等によって、災害時に事業者が自動的に動 く体制とその動機付けができており、それに基づく行動が取られていたことがうかがわれました。 A 避難体制の整備 〜確実な避難による安全の確保 【発生したこと】 在宅高齢者の安否確認体制ができていた地域は少なく、市区町村が情報を収集するのには多く の時間を要しました。安否確認体制ができていた場合にも高齢者介護に精通した事業者等が当初 から入っていた所は少なく、あらかじめ介護事業者がその体制に入っていた場合にも、要援護者 等の情報は得にくい状況がありました。 ■ 要介護高齢者の安否確認と市区町村への状況報告を行う事業者の指定 災害では、まず安全な場所への確実な避難が第一です。よって、あらかじめ対象区域を定めた 上で、当該区域における要援護者の安否確認と市区町村への状況報告を行う事業者を指定し、そ の事業者が行うべき内容の設定と、事業者がそれらを進める上で必要となる要援護者等の情報提 供とそのルールを定めておくことが必要となります。区域の設定については、今後の地域包括ケ アシステムにおける地域の設定とも連動するものと考えられるため、そのシステム構築と合わせ てこうした体制の整備を進めることが望ましく考えられます。以上を実施する事業者については、 要支援高齢者の情報も持つ地域包括支援センターが考えられますが、地域での実態等とあわせ、 居宅介護支援事業所、その他の介護事業者、社会福祉協議会等もあるものと考えられます。 【発生したこと】 東日本大震災で開設された福祉避難所では、後追いで指定された所が目立ちました。これは、 事前に福祉避難所として指定はされていたものの、災害による被害で開設できなかった施設があ ったことにもよりますが、事前にその指定自体が進んでいなかった状況もありました。 今回は、従来から福祉避難所の指定対象とされていた大型の介護保険施設のほか、小規模多機 能型居宅介護事業所等の地域密着型の施設でも福祉避難所が開設され、そこでは地域密着型なら ではの地域との互助関係による良さが発揮される等の効果も見られました。 ■ 福祉避難所の適切な配置とバリエーションの確保 高齢者にとっても、大規模施設が適する場合と地域密着型のような小規模施設が適する場合が 考えられます。地域内での福祉避難所の適切な配置という視点からも、今後はそうした効果等も 視野に入れ、市区町村は事業所に対し、福祉避難所指定の協力要請を行うことが必要と考えます。 B 避難所・自宅等での高齢者への支援体制 【発生したこと】 避難所・自宅等の高齢者に対しては、災害発生後に高齢者が居住している場所が、その心身の 状態に適したものであるかを確認し、適切なサービスと場所につなぐ必要があります。 要医療の場合は医療施設への搬送が必要であり、避難所での生活が困難な場合は福祉避難所へ の移動、重度の要介護状態の場合は施設への短期入所もしくは入所を進めることが必要となりま す。一方、介護サービスが必要でありながらも避難所にいる場合については、避難所を一時的に 居宅と見なすことで介護サービスを継続させることが必要と考えます。 ■ 避難所等における見極めとサービス調整の実施 〜トリアージ型の災害派遣介護チーム 災害派遣介護チームは、施設等の事業所の事業継続策としてマンパワー補強の役割を持つと考 えられます。一方、在宅の高齢者については、特にステージTにおいて短期間で地域の要介護高 齢者等の状態を見極めることが重要であり、市区町村ではその機能の確保が必要となります。今 回の東日本大震災では情報の集約が困難であり、高齢者の実態把握のために様々な事業者が重複 して一般避難所に入る混乱した状況があったことが確認されました。よって、高齢者のスクリー ニングやトリアージを行うことができる専門職から成るトリアージ型の災害派遣介護チームを組 成させ、避難所等で高齢者等の状況・状態の確認を行うと同時に、必要に応じてサービスにつな ぐ役割を担わせることが考えられます。そこで得られた情報は、「A避難体制の整備〜確実な避難 による安全の確保」でも示した在宅の要介護高齢者の安否確認と市区町村への状況報告を行う事 業者が集約し、市区町村に情報をあげることが考えられます。 その迅速さの担保と地域の体制づくりとして、以上は市区町村で整備することが望ましく考え られます。しかし、こうした体制整備は市区町村がメインで進めるものではあるものの、実際に はそれを行える人員の確保が必要である等、事業者等の協力が不可欠であることから、市区町村 が主導しつつも、事業者と連携して体制づくりを進めることが必要と考えられます。 市区町村で事業者数や職員規模の相違が見込まれることから、より広い医療圏域や都道府県程 度を目安とする場合も、地域によってはあるとも考えられますが、こうした体制を各地域で構築 することにより、サービス供給型と同様に広域間での支援も可能になると考えられます。 ヒアリングでも、ステージTをメインとしたトリアージ機能を持つチームの必要性について、 意見が多くありました。また、それを行う人材については、通所事業所等の在宅系サービスの事 業所等から専門職を派遣することも可能ではないかとの事業者からの意見も寄せられました。よ って、市区町村ではそうした人材を登録して訓練を行い、トリアージ型の災害派遣介護チームを 組成することが考えられます。 社会福祉協議会、職能団体等から成る、ある検討会では、地域における横断的なトリアージ型 の災害派遣介護チームの組成を実現すべく、検討を進めています。災害派遣介護チームでは、こ うした地域へのトリアージ型とサービス供給型の双方の機能の整備が必要と考えられます。 災害派遣介護チーム2種(例) トリアージ型 主にステージT 地域の在宅の要介護高齢者等の実態把握を実施する。 トリアージとサービスの見極めが可能で、医療とも連携しやすい職種を 中心に組成する。 例)保健師、看護師、ケアマネジャー等 サービス供給型 ステージT 〜ステージV 地域の事業所にマンパワーを供給する。 実際にサービスを提供する職種を中心に組成する。 例)介護福祉士、看護師等 高齢者施設@の調査で、防災計画の策定について聞いたところ、「震災前に策定していたが、内 容を見直す予定である(既に見直した)」(60.9%)、「震災前に策定していなかったため、策定を 行う予定である(既に策定した)」(13.3%)と新たに内容の見直し・今後策定を行う事業者が7 割を超えました。一方、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の策定について聞いた ところ、「BCP自体を知らない」(38.0%)という結果でした。高齢者施設の防災計画について は、火災対応中心の内容が多いことが指摘されていますが、事業者の事業継続に対する意識こそ が施設利用の高齢者への支援にも直結すると考えられるため、そうした事業継続に対する意識を 持つ人材の育成、非常時の指揮系統の確立、訓練等の実施を進める必要があります。 今後はあらゆる災害の想定とあわせ、災害時の施設内の体制と施設外との連携体制の構築と、 災害からの復旧工程の検討が必要です。そして、従事する全職員について、防災意識の高揚と、 被災時に的確に判断・行動できるような人間力を養う人材育成が必要です。事例でも、津波で地 域が分断され、法人本部等と連絡が取れない状況となったものの、事業所長のリーダーシップ、 職員の力、地域との連携や互助によって乗り越えた例がありました。従来の指揮系統がうまく機 能できない場合も視野に入れ、非常時の指揮系統の整備、的確に判断・行動できる人材の育成、 地域等との連携体制の構築は、事業継続のための重要な条件として進めていく必要があります。 A 事業所内の人材育成と体制づくり ■ 的確な判断と速やかな行動 災害時には、的確に判断して速やかに行動できることが重要です。そのためには、指揮系統や 防災管理体制が整備されているだけではなく、各職員の能力に負うところが大きく、人材育成が ポイントとなります。非常時には、あらかじめルール等に沿って行動できるだけではなく、それ を理解した上で自ら判断できるだけの力を備えていることが必要です。防災は人材育成とも言わ れるように、職員については日ごろからの防災意識の高揚を求めると同時に人間としての総合力 を高めることを求めることが必要であり、そのことによって初めて災害時に適切な行動が可能と なると考えられます。 また、災害時においても、職員には適切な情報が届けられていることが必要です。そのことに よって、各職員は適切な判断と速やかな行動を行うことが可能となります。 B 地域や事業者の実態に即した実効性ある対策の実施 ■ さまざまな協力体制の構築 事例では、事業所が地域の支援を行っただけではなく、少なからず地域からの支援によって助 けられたという例が複数見られました。地域と施設間の互助関係は、要介護者を多く抱える事業 所にとって非常に力強いものであり、共同での防災訓練や常時からの高齢者支援体制についての 協議等を行うことで、更にその連携体制を深めていくべきと考えられます。また、地域の自主防 災組織との連携についても、同様です。 (2)で述べた「施設間協定」は施設の事業継続のためには必須の仕組みであり、セーフティネッ トでもあります。よって単なる形だけの協定を結ぶのではなく、それを実効力のあるものとすべ く、常日頃から積極的に交流を図ることが望ましく考えられます。また、実際に職員派遣や受入 れ、利用者移動等のニーズが発生した場合には速やかに実行できるよう、協定では時系列での実 施内容のほか、その際の責任の所在や役割分担、費用の明確化を図り、あわせてその内容につい ても全職員が理解しておくことが必要です。 今回の震災では「想定外」「予想外」という言葉が多く聞かれましたが、そうした「想定外」を極 力少なくしていく必要があります。そのためには、あらゆる災害時の状況を想定した訓練を繰り 返し行い、自らのものとしておくことが必要です。例えば、職員も少ない夜間帯において災害が 発生した場合の利用者の救助策を考えると、施設にとって地域等との連携は必須のものであるこ とが判ります。よって、それらを見越した上で合同訓練を行う、一緒に実際の避難経路のリスク を洗い出す、リスクを最大限見込んだ状況下を想定しての地域全体のシミュレーションを行う等 の実効性のある訓練を、施設の全職員だけではなく連携先と実施しておくことが必要です。 また、災害時には災害や避難についての最新情報を確実に入手することが必要です。よって、 訓練においても、情報把握の方法と情報を獲得するための無線等のツールはどこにあるか、また、 そうして得られた情報に基づいてどのように行動するかの訓練を行っておくことが必要です。 ■ 設備・備品の整備 今回の震災では、建物の躯体が無事であった場合でも、設備やインフラ等に大きなダメージを 受けたケースが見られました。不測の事態にも対応できるよう、普段から整備を行っておくこと は当然ですが、設備やインフラにダメージを受けた場合も事業が継続できるよう、電源供給の方 策等の設備、断水等に備えた備蓄等の整備は十分に行っておくことが望ましく考えられます。小 規模施設等で単体の備蓄が難しい場合は、地域で共同備蓄を行うことも考えられます。 また、二次災害等の発生を回避すべく、危険物の保管については常時点検と確認を行っておく ことが必要です。今回、ガソリンや燃料等の不足があり、今後はそれらの積極的な備蓄が進めら れる可能性もあると考えられますが、その際には災害時にも安全が確保できるような保管状況と することが必要です。 6. 最後に 東日本大震災は、広域による連携や支援等、災害時における高齢者支援はどうあるべきかとい う新たな課題を提示することとなりました。しかし、災害時に初めて動く仕組み等はなく、日ご ろから出来ていないことは災害時に行うことは困難です。また、地域で実際にできていないこと を、広域から支援を得ることで機能させることも困難です。 よって、まずは地域で高齢者を支える体制の構築こそが重要であり、それを広域支援へと発展 させていく方法が有効と考えられます。また、そうした地域を基本とした災害時での高齢者支援 体制は、地域包括ケア体制の姿と表裏一体であるとも考えられ、今後進む地域包括ケア体制の構 築と合わせて災害時の高齢者支援体制の整備も進めていくことが望ましいと考えられます。 本調査研究の詳細版とデータは、平成24年4月下旬を目途に以下のホームページ上で公開されます http://jp.fujitsu.com/group/fri/report/elderly-health/2011support.html 平成23年度 被災時から復興期における高齢者への段階的支援とその体制のあり方の調査研究事業報告書 (概要版) (平成23年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業) 発行月 平成24(2012)年3月 発行者 株式会社富士通総研 〒105-0022 東京都港区海岸1-16-1 ニューピア竹芝サウスタワー